貴腐 ☆ ☆ ☆
さあ飲むぞ、といったような
「大騒ぎの飲みノリ」は
元来
どうも苦手なほうであるが
(ついでに述べれば よくありがちな
とりあえずビール・・もない。
料理に対してのお酒は
その原料を1種類で通す。
ぶどう原料・麦原料・米原料・これらを
混ぜて一食にいただくことはない。)
極上の料理とともに
ゆっくりといただく
極上のお酒は
まさに「料理への儀礼」として
大事にする。
さらには「料理人への感謝として」
大事にする。
あらかじめ言っておくが
極上の料理とは
高級高価な料理ばかりを言うのではない。
たとえば
一杯200円で見つけた新鮮そのものの
黒光りする「イカ」。
さぞかし
夜明け前の群青色の海で
ピカピカと
輝いていたことであろうかと
泳いでいる様を想像しながら
そして
日の出待つ暗闇での
水しぶき上げる漁を
想像しながら
思い切って
スーパーの棚からチョイス。
もちろんのこと、
極上の
「塩辛」手づくりを想像しながら
である。
これだけでも
胸中はすでに
踊り出したいほどに気分上々なのだ。
こんな時の、
たとえば「お酒なし」は、、
というと
たしかに イカ君に
申し訳ない気持ちになるものだから
ほんとうに不思議だ。
極上の手作り塩辛は
炊きたての白米でいただくのも
もちろん結構だが
やはりイカ君へ感謝したい気持ちは
ほんの一口であっても
日本酒でこそ
表すことができるものかもしれない。
(ときにはシェリーなども
オツな組み合わせになろうかと思うが)
これは
何といっても
「漁」への 祝杯だからだ。
黒く光るイカ君は
ワタが新鮮なのはもちろん、
天塩をふれば、
さらにイキイキと
蘇るように輝き出す。
作りながら味わい
観て味わい
食べながら味わう
わずか200円の この上ない「極上料理」だ。
同じ「極上」でも活魚とは
ある意味正反対の
貴腐ぶどう。
樹の上で
積極的に腐らせた このぶどうで作る
好物のスィートワインがある。
「貴腐ワイン」。
貴腐菌によって
葡萄そのものの糖分が
樹上で凝縮された
「貴腐葡萄」で造られた逸品である。
ハンガリーやドイツの貴腐ワインもあるが
発祥はフランス 。
この国で「貴腐ワイン」と呼ばれるものは
とくに
ソーテルヌ地区で造られるものを指す。
ソーテルヌの気候型が
すばらしい貴腐菌を産み出すそうだ。
貴腐ワインを
デザートワインとしていただくのは
筆者にとっては
料理人が腕によりをかけた
特別なフレンチを
心して食させていただく時の
グランドフィナーレとして
一番の喜びであり
これぞフレンチの醍醐味とも
思える。
貴腐ワインは
まるでハチミツのような
つやつやで濃厚な芳香があり
こちらの表情までとろける。
全身が
甘いゴールドの蜜に包まれる感覚になる。
そして
貴腐ぶどうに肖る至福のひとときに
たいせつにいただくデザートは
何と言っても
チーズがベストマッチなのだ。
ウォッシュ系のチーズや
シェーブルなどの
香りが比較的強めの
濃厚なチーズとの食べ合わせが
ものすごく
ものすごくうっとりとするのは・・
思えば
「貴腐」同士だからかもしれない。
言葉は極端だが
貴腐ぶどうと濃厚チーズ、
つまり
腐ったもの同士で
個性を融合させて
体内で合わさって行くときの
存在感とインパクト、そして
その芳香の余韻は
・・
あまりにも
強烈で素晴らしい。
翌日になっても
その翌日になっても
返り味にうっとりとするほどである。
デザートワインとデザートチーズの
存在感は
想像以上に大きいと言える。
樹上で積極的に腐らせた
稀少な「 貴腐ぶどう」は
まさに葡萄の女王である。
思えば「腐る」とは深いもの。
食べ忘れて腐る・・ というと
退化しているイメージだが
「積極的に腐らせる」とは
確実に「進化」であるというところが
魅力的だ。
しかも
このぶどう、木に生りながらである。
人が 生きながらに
自身を育み
積極的に腐らせ
進化させる・・
というと
やはり
人間性には糖分が増すのだろうか 。
おそらくは
貴腐ワインのように
口にふくんですぐに
甘さでとろけるというような
・・そういう
分かりやすい甘さでは
ないかもしれないな、と
思ったりする。
貴腐葡萄で造ったワインの
甘さはまた
音楽に置きかえれば
バロックオペラのような
シックで上品な甘さだ。
ドレスに置き換えるなら
生地は重めのバロックドレス
といったところだろうか。
すきとおった琥珀に
どちらかと言うと
古ぶるしい
夜会の光景までが浮かぶ
そんな
極上の甘さだ。
それが
「貴腐」だ。
___ポーラちかこ___
MintMint ♪
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